みのもんたの『おもいッきりテレビ』の健康情報とは何だったのか

みのもんたの『おもいッきりテレビ』の健康情報とは何だったのか

『午後は○○、おもいッきりテレビ』(日本テレビ、以下「おもいッきり」)は80年代終盤から2007年まで長期間放送された、みのもんたが進行をつとめた昼の人気帯番組である。人気はあったが健康情報番組としての問題も残した。スケプティクスに総括する。

当時、すでに『笑っていいとも!』(フジテレビ)がマンネリ化で下降線をたどっていたときだけに、その受け皿という意味でも一気に視聴者を増やした。

ただし、人気番組はそれだけ注目もされているから、「おもいッきり」は週刊誌でたびたび批判されていた。

“ちょうちんブルマー”の似合ったような時代に戻れる?

たとえば、放送終了も近い2007年には、『発掘!あるある大事典』の納豆の捏造をすっぱ抜いた『週刊朝日』が、2回にわたって「不適切放送」(4月20日号)「決定的な新疑惑」(4月27日号)といった大特集を組んでいる。

前者では、2006年11月9日に放送された「おもいッきり」の特集は、「あるある…」の「納豆ダイエット」の“原点”であり、不適切な内容を含んでいたことを報じている。

みのもんたは、例の調子でこう言った。

「あの10代の“ちょうちんブルマー”の似合ったような時代に戻れるんです!」

“アンチ・エイジング”を期待させるみのもんたの語り口で取り上げられたテーマはDHEAだった。

みのもんたは、食事、運動、生活のそれぞれに一工夫加えることで体内のDHEAの分泌が高まるとし、「食事」の食材に納豆を紹介していた。

DHEAは「長寿ホルモン」であり、イソフラボンを摂取することで増加。

イソフラボン摂取には納豆がいいという説明が行われた。

しかし、それは「あるある…」と同じ論文が根拠となっており、論文執筆者は「私たちの研究は、イソフラボンの摂取によってDHEAが増えるという結果を示していません」と明言。

番組で紹介された「イソフラボン摂取によるDHEA量」の実験データは論文と数字も違っていること、論文は20歳~40歳までの健康な男性を対象とした、大豆の摂取が前立腺がんに関係するホルモンにどう影響するかを考察したものであり、性差を無視して中高年の女性にそのまま伝えるようなものではない、などについて言及している。

さらに、「(番組の)最終的な責任は、全部僕にある」(みのもんた『義理と人情~僕はなぜ働くのか』幻冬舎)と宣言しておきながら、この問題に対しては「番組の内容にかかわることなので答えようがない。日テレに聞いて下さい」とマネージャーがスカしたこと、局の広報部は「イソフラボン摂取によるDHEA量」の表についての間違いを認めたものの、生出演した医学博士に全責任があるように言い、「視聴者に対して、いつ、どのように訂正するかという問いには、回答がなかった」ことを報告している。

誤りがあっても訂正しない『あるある』以下

後者は、2006年9月13日に放送された、米国のミネソタ大学が発表した最新情報と称する「最強の抗酸化食材」特集を取り上げた。

ミネソタ大学の論文では、番組で挙げた3つの食材が「最強の抗酸化食材」ではなかったこと、それらの食品についての説明も科学的根拠に乏しいこと、論文を我田引水に使った上に発表者の名前すらも発表していなかったこと、コメンテーターをつとめた「栄養学博士」の学位が「学位商法」によって獲得した疑惑があることなど、これでもかこれでもかと怪しさが紹介されている。

ところが、日テレはそれらに対してごく一部しか回答していないという。

「あの関テレは不十分ながらも調査をし、捏造を認め、視聴者に謝罪した。それにひきかえ日テレは、誤りがあっても訂正しないばかりか、数々の疑問や指摘にも耳を傾けようとしない。
その対応は、関テレ以下ではないのか」

『週刊朝日』がこれほど厳しく断罪するのは、番組自体の疑似科学性だけでなく、みのもんたが舌鋒鋭く「あるある…」の捏造をこき下ろしたり、「おもいッきりテレビは捏造だとかウソは申しません」(4月10日放送の「おもいッきり」)と大見得を切ったりしているにもかかわらず、自らの番組の疑惑に対して釈明もしなければ責任もとらない不誠実な態度にあるからだ。

何とも厚顔で胡散臭い番組だったわけだが、一方で20年近くも続いたわけだから、視聴者からの支持も得ていたことは確かである。

そこで、「おもいッきり」とはいったい何であったのか、ということを改めて振り返ってみよう。

ありふれたことで煽り、ありふれたもので落とした

みのもんたをテレビ界一の売れっ子にしたのは『おもいッきりテレビ』である。

同番組は、健康情報と身の上相談の2つが柱になっていた。

その健康情報について改めて考えてみたい。

ご存じの方もいらっしゃると思う、「おもいッきり」の初代司会者は山本コウタローだった。

健康情報をメインにリニューアルした、みのもんた版「おもいッきり」が開始されたのは1989年4月である。

「特集(健康情報)」や「おもいッきり生電話(身の上相談=以下生電話)」などのコーナーがウケて、91年にはついに視聴率で「笑っていいとも」を抜いている。

「特集」は、観客の中高年女性を「お嬢さん方」とおだて、彼女たちも番組進行に利用する、萩本欽一や明石家さんまとも違う独自の「素人いじり」もあり、人気コーナーとなった。

しかし、このコーナーは科学や健康を扱うため、みのもんたという司会者個人の評価に留まらず、健康情報番組の是否という、より大きな問題を見なければならない。

同コーナーは、おおむね「ありふれたコトに『隠れたリスク』が存在する。しかし、やはりありふれたモノにそれをカバーする『隠れた健康効果』がある」という構成になっていることは、識者の間でも放送中から見抜かれていました(柄本三代子『健康の語られ方』青弓社)。

「ありふれたコト」とは、「最近疲れやすい」「腰が痛い」「頭痛がする」といったことである。

それが、とんでもない病気の前兆であると警告する。

たとえば、がん、糖尿病、脳卒中といった命を脅かすような深刻な疾患名でも平気で持ち出してざんざん煽り、その上で、たとえば「ナスを食べればがんの予防になる」など、「ありふれたモノ」でアッサリ解決してしまう。

「ありふれたモノ」は食材でいえば、野菜の中の何かであったり、洗面器やタオルといった日常的に使える道具や軽い体操であったりする。

進行役のみのもんたは、伏せ紙をつけたボードに書かれた設問を読みながら、4人のゲストや「お嬢さん方」を絡ませて設問を大仰に引っ張り、○○博士や△△教授といった専門家に回答とコメントを述べさせる。

視聴者にとっては専門家が一枚噛んでいることで、科学的な根拠を以て語られているように受け取られる。

ところが、このコメンテーターの解説は科学的に疑問符がつく場合が少なくない。

『週刊文春』(2003年5月29日号)で山野美容芸術短大・中原英臣教授はこう述べている。

「もしこれらが本当だとすれば、症状のひとつとして医学書に載るはずですが、そんな話は聞いたことありません。(中略)番組の構成上、病気につながると言う展開にしたいために、無理矢理とんでもない病名と結びつけているわけです」

中原英臣氏は以前から、「どうやら『おもいッきりテレビ』には『ジャンク』な健康情報しか詰まっていないのかもしれません」として、同番組の手法を「早とちりな話を最新情報として見せる」「実験を使ってもっともらしく見せる」「むつかしい話を脅かしながら見せる」「まだ十分にわかっていないことをもっともらしく見せる」「辻褄の合わない話を平気で見せる」「どうでもいいことをもっともらしく見せる」などのパターンに分類して批判している(『新潮45』2000年6月号)。

食物や栄養が、健康や病気に与える影響を過大に評価する「フードファディズム」を研究する群馬大学・高橋久仁子教授も批判者の一人である。

健康情報番組には、科学的根拠があるかのように見せる「実験もどき」や、同じ番組の中での論理矛盾、学術論文の謝った引用などがあると指摘している(『論座』2005年9月号)。

筆者は、同番組の初期に出演していた医師の千葉康則さんの教え子なので、一度番組について厚かましくも質問したことがある。

「先生、みのもんたの番組で、チョコレートを食べると、たちどころに頭がさえるとか言ってませんでしたか? チョコなんか食べても全然そんなことないですよ」
「いや、あれはね、ディレクターが言ってくれっていうからさ……」

出演する専門家の方々も、役割をあてがわれていたようである。

他にもある健康情報番組について

「あるある大事典」や「ためしてガッテン」(NHK)などの類似番組だけではなく、健康情報番組は、基本的にこうした番組の作り方を行っている。

たとえば、現在も人気の『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(テレビ朝日)もそうである。

山田邦子の乳がんが見つかって注目されたが、「ありふれた症状」から「隠れたリスク(恐怖の病)」を結びつけ、司会者とゲストと専門家が絡んで盛り上げる点で、「おもいッきり」と軌を一にした作り方である。

本当に科学的な見地に立つのなら、「リスク=ハザード×確率」であることを踏まえた紹介をすべきだが、この番組には「ハザード」の演出ばかりに重きが置かれ、「確率」の解説が見事に抜け落ちている。

このことによって、視聴者が病気に対する過剰な恐怖感を抱き、素人判断による治療などに走らせ、結果として問題のある民間療法や代替療法にシフトしかねない。

つまり、医療現場から見ると、実は有り難迷惑な面もあるということである。

「行きがけの駄賃」でゲストの病気がわかっても、視聴者に対して科学的・医学的にまっとうな眼を養うといった方向性は、長い目で見ると決して期待できない番組の作り方といわざるを得ない。

上のイメージ画像
Photo by Joseph Kellner on Unsplash

健康情報・本当の話
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