胃がんの原因でよく言われるのはピロリ菌。そして、塩辛いものが大好きという食生活。東北の食生活は塩辛い塩漬けが多いので胃がんが多いなどとも言われている。しかし、本当に「塩辛い食べ物」が大好きな人は胃がんになりやすいのかスケプティクスに見る。
和食が健康食というわけではない
『「塩辛い食べ物」が大好きな人は胃がんになりやすい』という、今回の趣旨にピッタリの記事を書いているのは、『日刊ゲンダイ』(2016年2月19日付)の「役に立つオモシロ医学論文」(青島周一)である。
ところで、塩辛い食べ物というのは、具体的になにがあるだろうか。
イカの塩辛、塩ジャケ(塩鮭)、すじこ、佃煮、高菜漬け、梅干し、つけもの(お新香)……
和食の定番ばかりである。
よく、和食が健康食のように言われるが、実はそれは正確ではない。
和洋折衷の高度経済成長期の頃の食事がもっとも理想的というのが現在の定説である。
国立がんセンタ-が、1978年に発表した『がんを防ぐための12か条』の第7条には、塩辛いものは少なめに、あまり熱いものはさましてから、と記されている。
これは、胃がんと食道がん予防のためとされている。
ではなぜ「塩辛い食べ物」が胃がんと結びつくのだろうか。
胃がんの場合には、前段階として胃の萎縮があるといわれているが、そこに塩がさらに胃を荒らして、発がん物質が触れやすくなるといわれている。
言い切れないが因果関係は否定出来ない
さて、では、「塩辛い食べ物」が大好きな人は胃がんになりやすい理由について見ていこう。
上で紹介した「役に立つオモシロ医学論文」(青島周一)によると、「塩辛い食べ物」が大好きな人は胃がんになりやすいという研究は昔から行われており、複数報告されているという。
たとえば、1963年には、すでに塩辛いものは胃がんの原因になると発表されている。
その翌年の1964年には、食塩摂取量と胃がん死亡率に地域的相関があると発表された。
さらに翌年の1965年には、塩辛いものが胃壁を刺激して胃がんを発症させる可能性があるとの仮説が発表されている。
この頃はまだ、ピロリ菌などは取り沙汰されてはいなかったが、それでもここまで研究されていたのだ。
もっとも、1964年の研究は、1980年に否定されているのだが……。
それはともかく、記事では、実際の塩分摂取量ではなく、塩辛い食べ物に対する「好みの強さ」と胃がん発症リスクの関連についてはあまり検討されていなかったが、日本疫学会誌2016年2月号には、「塩辛い食べ物に対する好みが胃がん発症と関連するのか」を検討した前向き観察研究が掲載されていることが紹介されている。
がんや心臓病のない40~79歳の日本人4万729人が対象。
塩辛い食べ物の好みに関して「全く好まない」「どちらかといえば好まない」「どちらとも言えない」「どちらかといえば好む」「強く好む」の5つのグループに分け、14.3年間(中央値)追跡調査したという。
そして、「アルコールの摂取」「喫煙状況」「胃がんの家族歴」「野菜や果物の摂取頻度」「塩分の摂取量」など結果に影響を与えうる因子で調整し、胃がんの発症リスクを検討した。
その結果として、胃がんの発症は「どちらとも言えない」と答えた人たちに比べて、「強く好む」と答えた人たちで31%、統計的にも有意に増加したという報告である。
もっとも、「どちらかといえば好む」「どちらかといえば好まない」「全く好まない」と答えた人たちでは、「どちらとも言えない」と答えた人たちとほぼ同等で、統計的に有意な差もなかったという。
胃がんの原因は「塩辛い食べ物」まとめ
それで青島周一氏の結論は、「この研究から「塩辛い食べ物への好みが胃がんのリスクと関連する」とまでは言い切れない部分もありますが、「塩辛い食べ物が大好物である」というのは、胃がんの危険因子のひとつと考えてもいいかもしれません」と述べている。
まあ、塩辛いものが好みなら、塩の摂取量も増えると考えるのが自然であるから、いずれにしても1963年に報告された、塩辛いものは胃がんの原因になるとの発表は生きていると考えたほうが良いだろう。
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